3日目は、スタジオ・ミュージシャンとして向こうのアーティストのレコーディングに参加した。一曲目は、初日に打ち合わせをしたアコースティックの曲だ。何テイクか録ってみたが、スタジオに置いてあったギターはビビリがひどく、考えた末、プロデューサーの知り合いのギタリストからマーチンを借りることになり、それが届くまでしばらくお休みとなった。時間のことは全く気にしないのが中国流らしい。しかし、日本人の僕は、その待ち時間がもったいなくって、もう一方の曲のプロデューサーの所へ行き(同じスタジオにいるので)、どんな曲をやるのかデモを聴かせてもらうことに。ちょっと試させて欲しいと言ってエレクトリック・ギターのセットアップをし、取りあえず置いてあったPODを使って色々と弾いてみるうちに、皆が段々本気になってきて、E-bowを取り出して試しに和風ソロを弾くと、一発でO.K.が出てしまった。その上にちょっとジャズっぽいオクターヴ奏法を重ねて欲しいと言う。う~ん、もう充分だと思ったが、やってみると、プロデューサーは大満足の様子。この曲には、更に例のビビるギターでアコースティック・パートをダビングし、結局待ち時間の間に一曲終了してしまった。アコースティックがなかなか来ないので、スタジオ内のアンプでも試してみようかとスイッチを入れてみたら、2台とも全く音が出なかった。これも中国では珍しくないことらしい。困っていると社長が出てきてすぐさまレンタル会社に電話をかけ、マーシャルを手配してくれたので事無きを得た。夕方になってようやく待っていたギターが届くと早速レコーディングを再開。この曲はギターとヴォーカルのみの曲なので、コントロール・ルームでプロデューサーが仮歌を歌い、それをヘッドフォンで聴きながらスタジオで僕がギターを弾くという、まるでLIVEのようにレコーディングは進んでいった。バッキングが録り終わると7時前になっていたので「ソロは食事の後にしようよ。」と、僕らはとても楽しみにしていた、北京で一番美味しいと言われている北京ダックの店に行くことにした。北京一の北京ダックという事は世界一ということなのだ。凄いぞー!! 店の名前もなんと"鴨王"なんだぞ。店に着いた。「あ、目の前で鴨王が呼んでいる。」「カモォ~ン」もう期待で胸はダックダックいやワクワク(師匠、どうでしょう?)。計らずも取り乱してしまいそうな中国最後の晩餐が始まった。ん~、鴨のペーストから始まり、もう鴨尽くし。皆には悪いが、もう出てくる物出てくる物何でこんなに美味しいの?という感動の連続。北京ダックの正しく美味しい食べ方も教わり老酒もたらふく飲み「死ぬ前にもう一度ここに来たいよー。」と身もだえしながら、とても贅沢な時間はあっという間に過ぎて行った。
満足しきった僕らは(なんか毎晩こうだが)再びスタジオに戻りソロのダビングを始めた。70年代のブルース・ロックっぽい渋~いソロを弾いて欲しいと言う。音色を決め何度か弾いて、プロデューサーの求めるイメージを探る。言葉の壁はあるが、段々とお互いのことが解り合え、ちょっとした音のニュアンスにも同じ価値観を持っているんだと言うことが確認出来ると、いつしかガラスの向こうのちょっとした身振りだけで何を伝えたいのか解るようになっていた。こうなると全てがスムーズに動き出す。もう日本人とか中国人とかの次元では無い。レコーディングでもジャム・セッションの時でも感じる事だが、もしも世界じゅうの人々が皆ミュージシャンだったら、世界はもっと平和になるじゃないだろうか?少なくとも今よりはずっと平和だろうなと思う。
レコーディングも最高にHAPPYな気持ちで終えた僕は、「まだやりますかー!~」と末吉君に呆れられながらも、今宵もジャムの相手を求め、再び北京の街へと繰り出していった。
2002年11月15日