徒然日記 その164

ホロヴィッツの弾くトロイメライ。なんと柔らかで安らぐ気持ちにさせてくれるんだろう。この曲を聴くと、子供の頃、家の二階にあったクリーム色のオルゴール時計を思い出す。裏側の金色が剥げかかったシールに"曲:トロイメライ"と小さく書いてあり、その語感は何となく眠気を誘うものだった。僕は幼稚園から帰ると、よく二階の部屋で寝転がって、ゼンマイを巻いては聴き、止まると又巻いて何度も何度も繰り返し聴いていた。この曲はシューマンのピアノ小曲集"子供の情景"の中の1曲。余りにタイトルがはまっていて思わず苦笑してしまう。ゼンマイの宿命で段々遅くなっていくメロディ。それにつられて気持ちも動作もゆっくりゆっくり。もう止まるかなーと思っているとまたポロンと微妙なずれを持った和音が聞こえ、今度こそ終わりかなと待っていると、また一つポロン...。待ちくたびれてそのまま眠ってしまったことも何度となくある。
膨張し続けていると言われている宇宙。おそらくその膨張がストップする頃には、全ての動きがこのオルゴールのようにゆっくりとスピードを落とし、最後には止まっているのか動いているのかも判らなくなってしまうことだろう。神様がもう1度ゼンマイを巻くのか、そのまま眠ってしまうのかは判らない。僕も幼稚園の頃、心のどこかで、音楽を聴くこと以上に時間や宇宙をコントロールする感覚を楽しんでいたのかもしれないな。
慌しく過ぎて行った夏の終わりにトロイメライを聴いて少しだけ心のスピードも落とし、静かに秋を迎えたいと思う。


2003年9月10日